IPO用語集
さ〜そ
財務会計
企業が外部へ自社の情報を報告するための会計のこと。外部報告会計とも呼ばれる。企業の会計には「財務会計」と「管理会計」との2種類があり、「財務会計」は財務諸表を利害関係者(株主・債権者・投資家・取引先)へ開示することを目的とする。財務諸表は、「貸借対照表(B/S)」、「損益計算書(P/L)」、「キャッシュフロー計算書(C/F)」がメインとなり、これらは「財務3表」と呼ばれる。職種として、「経理」と「財務」があるが、「財務」と「財務会計」は意味が異なるので混同しないように注意。
3点セット(内部統制)
内部統制報告制度(J-SOX)において、内部統制を把握するための3つのツール、「フローチャート」、「業務記述書」、「リスクコントロールマトリックス(RCM)」のことを総称して「3点セット」と呼ばれる。簡単に、「フローチャート」は、業務のプロセスを図式化し可視化したもの、「業務記述書」は、業務内容を文章にして可視化したもの、「リスクコントロールマトリックス」は、業務におけるリスクとそのリスクに対応するコントロールについて対応表にしたものを表す。※金融庁のホームページ「内部統制報告制度に関するQ&A」では、「3点セット」を作成しなければならないというわけではなく、「フローチャート」や「業務記述書」の代わりに、既存の業務マニュアルや諸規程類を利用し、必要に応じてリスクコントロールマトリックスのような図表を作成することも一法であると説明している。
時価総額
上場企業の価値を表す指標の一つで、上場株式(個別銘柄あるいは上場銘柄すべて)が、どの程度の規模なのかを示すもの。個別銘柄の時価総額は、その株価に発行済株式数をかけたもので表すことができる。取引所の上場審査において、「形式基準」の一つにもなっている。
自己資本比率
総資本(総資産)のうち、どの程度が自己資本でまかなわれているかを示す指標。自己資本と他人資本を合わせた使用総資産に対する自己資本の割合をいう。主に株主からの出資である自己資本には返済義務がないため、自己資本比率が高いほど、その企業は返済不要の資本を元手に事業を行っているため、企業経営の安全度が高い。
市場変更
既に上場している会社が、取引所内の他の市場へ上場市場を変更すること。 例えば、JASDAQやマザーズ市場から、本則市場(新興市場以外の市場)に上場することをいう。ただし、市場第二部の銘柄が市場第一部銘柄になることは「一部指定」、逆に市場第一部の銘柄が市場第二部銘柄となることは「指定替え」という。「経由上場」ともいい、「鞍替え」などと呼ばれることもある。一般に「指定替え」という用語で上記を総称して広く使われているが、東京証券取引所では、上記のように異なる使い方がされている。
執行役
「指名委員会等設置会社」において業務執行を担当する役員のこと。経営全般を監督する機能を「取締役会」が、業務を執行する機能を「執行役」が担当する。執行役が取締役を兼ねることは可能で、「執行役」の任期は 1年。取締役会は「執行役」を監督し、解任することができる。会社に任意に設置され、法的に定義されていない「執行役員」とは異なるので注意。
実質基準(実質審査基準)
取引所の上場審査において、上場申請会社が上場会社としてふさわしい、充実した管理体制を備えた会社であるかどうかを審査するための基準のこと「実質審査基準」とも呼ばれる。上場審査をパスするためには、「形式基準」と「実質基準(実質審査基準)」がある。「実質基準」は「形式基準」のように定められた数値があるわけではなく、申請企業は取引所によって多角的な観点から審査される。
資本金
株式会社において、株主が払い込んだ金額のうち、会社が資本金としたもの。商法上の手続きを経て定められ、登記と貸借対照表で公示される法定資本金のこと。
資本準備金
株式会社において、株主が払い込んだ金額のうち、資本金に組み入れられなかった部分の金額が積み立てられたもの。法定準備金の一つ。 原則、株式の発行価額は、資本金とされるが、企業は、発行価額の2分の1を資本準備金とすることができる。法定準備金が、資本の4分の1を超えるときは、資本準備金を資本剰余金に振り替えることができる。
資本政策
株式公開準備における資本政策とは、株式公開に向けた事業計画を達成するために、資金調達および株主構成を計画すること。「資金調達」、「キャピタルゲイン」、「持株比率」などが重要な要素となり、株式公開のメリットを享受するためにも、後戻りができず、失敗できない大切な計画となる。上場準備に限らず、増資・増配や自社株買等、適正な株主構成の構築を行うことも資本政策と呼ばれる。
指名委員会等設置会社
「監査役設置会社」、「監査等委員会設置会社」ととともに、株式会社のガバナンスの形態のひとつ。2015年5月施行の会社法改正により、委員会設置会社から名称変更され「指名委員会等設置会社」になった。「監査役設置会社」は、取締役会が業務を執行しそれを監査役が監督するのに対し、「指名委員会等設置会社」は、取締役会の中に指名委員会・監査委員会・報酬委員会の3つの委員会を設置すると共に、執行役が業務を執行しそれを取締役が監督する。取締役は業務を執行することができず、執行役については、取締役を兼ねることができる。
社外監査役
監査役のうち、社外から選ばれる監査役のこと。逆に社内から選ばれた監査役を「社内監査役」といい、「社外監査役」は、過去10年以内に当該株式会社または子会社の取締役・会計参与・使用人になったことがないこと、また親会社等の関係者でないこと、兄弟会社(親会社等の子会社等)の業務執行関係者でないこと、経営者等の近親者(配偶者・2親等内の親族)でないことが要件となる。「監査役設置会社」の場合、3人以上の監査役のうち、半数以上は「社外監査役」を置く必要がある。
社外取締役
取締役のうち、社外から選ばれる取締役のこと。現在または過去において、当該株式会社またはその子会社の業務執行取締役、執行役、支配人、使用人などではない取締役のこと。社外からの独立した目線により、取締役会の監督機能の権限を強化し、経営の公平性・透明性を図る目的で置かれる。現在、東京証券取引所は、東証一部・二部に上場する企業に対し、「コーポレートガバナンス」の強化の一つとして、社外取締役を2人以上選任するよう促しており、2人以上選任しない場合に企業は理由を説明するよう義務付けている。社外取締役には、他の企業の経営者や元経営者が多く、最近では弁護士や検事、学者など、ユニークな経歴の人材も増えている。
従業員持株会
会社の従業員(当該会社の子会社等の従業員を含む)が、当該会社の株式の取得を目的として運営する組織のこと。「社員持株会」とも呼ばれる。株式公開準備においては、「ストックオプション制度」と並ぶ社員のインセンティブプランとなる。一般的な従業員持株会は民法上の組合として設立され、会社及び子会社等の従業員が会員となり、その拠出金により株式を取得する。一般的には自社株投資奨励等の目的で企業が一定の奨励金を補填等を行うため、従業員は長期にわたって財産形成するメリットがある。また企業は、従業員の自社株式保有により、従業員に経営参加意識を持たせることができたり、上場前、上場後の安定株主として一定の期待ができるなどのメリットがある。 ただし上場前の従業員持株会は、特に「資本政策」に大小の影響を与えるため、専門家への相談や慎重な検討が必要となる。
主幹事会社
有価証券の募集や売り出し、新規公開の際、引受・販売等を行う「幹事会社」のうち、引受数量が多く、全体的な作業の運営やスケジュール管理など中心的役割を果たす会社のこと。IPOの際、公開時の引受・販売に加え、公開までの各種事務手続きや審査、株価設定、株式上場後の資金調達の助言や指導なども行う。「幹事会社」の代表となる証券会社で、主幹事証券会社は委託売買・引受・募集売出・自己売買の全ての認可および承認を受けている『総合証券会社』である必要がある。
証券代行機関
株式会社の名義書換事務を代行する名義書換代理人のこと。「株主名簿管理人」と称される。「株主名簿管理人」は、株主名簿の作成や配当処理等の株式に関する事務を行う。東京証券取引所が承認している「株主名簿管理人」は信託銀行および東京証券代行株式会社、日本証券代行株式会社及び株式会社アイ・アールジャパンに限定されている。
証券取引所
投資家が株式などを売買する専門の場所のこと。日本では東京・名古屋・福岡・札幌の全国4カ所がある。2013年に東京証券取引所グループと大阪証券取引所の統合により「日本取引所グループ」が発足し、世界有数の規模を誇る取引所グループが誕生した。
上場基準
金融商品取引所(証券取引所)に上場するための審査基準・必要要件のこと。東京証券取引所、名古屋証券取引所には第一部市場と第二部市場などがあるが、それぞれの上場区分ごとに異なる基準を設けており、新興市場と呼ばれるマザーズやJASDAQなどは、一部や二部に比べて、ハードルを下げた上場基準を設けている。
上場審査(証券審査/取引所審査)
企業が上場するために行われる審査のこと。上場審査は、証券会社による「証券審査」と、取引所による「取引所審査」に区分される。「証券審査」は、主幹事証券会社が、日本証券業協会が定める「有価証券の引き受け等に関する規則」に基づき、引受責任を果たすために、会社から収集した資料及び情報その他必要に応じて収集した資料及び情報を基に、有価証券の引受けの可否を判断する審査のこと。審査終了後、証券会社内部の審査がなされ、新規上場の推薦を行う決定がなされた後、上場準備会社の「上場申請」を取引所が受けて、「取引所審査」が開始される。「取引所審査」の期間は、東京証券取引所本則市場の場合は3ヶ月、マザーズの場合は2ヶ月が標準審査期間となる。
上場ゴール
上場して創業者利得を得ることを目的としているようなベンチャー企業や、上場時の初値(公募価格)が高値で株価が下落し続けるような会社、上場後に業績の下方修正を連発するような会社のことを揶揄して「上場ゴール」と呼ぶことがある。本来上場することは、これから大きく会社を飛躍させるために通過点として行うものであるが、未上場企業に出資してリターンを得るベンチャーキャピタルや創業者利潤を得たい創業者の観点からは上場で利益を確定させることも当然の目的でもあるため、必ずしも意図的でなくても、結果的には上場ゴールとなっている企業も存在しているのが現実。
ショートレビュー
監査法人等が上場準備会社を対象に、「金商法」に準ずる監査契約を締結する前に、上場準備に向けた課題抽出のために実施する調査のこと。「短期調査」、「予備調査」などとも呼ばれる。 監査法人が3日程度のヒアリングや調査を行い、レポートを作成し、経営陣に報告する。ショートレビューの結果に応じて、上場スケジュールを計画したり、上場に必要な採用計画などを行う。上場申請年度の3期前には実施しておきたい。
新株予約権
新株予約権証券の所有者が、株式をあらかじめ定めた価格で取得できる権利。2001年の商法改正によって、新株予約権制度が導入された。従来、新株予約権は転換社債や新株引受権付社債(ワラント債)など、社債と組み合わせた形にすることで、発行することが認められていたが、この改正法により、新株予約権を単独で発行できるようになった。
新規仮想通貨公開(ICO)
資金調達をおこないたい企業やプロダクトチームが、独自に発行した仮想通貨をインターネットを通じて個人など不特定多数に直接販売することで資金を集めること。略称はICO(Initial Coin Offering)。「クラウドセール」、「プレセール」、「トークンセール」などとも呼ばれるが、現在では「ICO」という呼び方が一般的に普及している。株式を発行して資金調達する「IPO」に対し、証券会社などの金融機関を仲介しないため、企業は手数料を抑え機動的に資金調達でき、投資家は受け取った仮想通貨を企業のサービスに利用するほか、需給次第で値上がり益が期待できるというメリットがある。一方で、IPOのように審査や上場基準などがないため信用リスクが高く、株式に比べ仮想通貨自体の流動性が低いため、価格が乱高下しやすいなどのデメリットもある。
新規株式公開(IPO)
未上場企業が自社株式を取引所に上場し、株式市場で自由に売買できるようにすること。略称はIPO(Initial Public Offering)。IPOの企業にとってのメリットは主に、「資金調達の多様化・資金調達力の向上」、「知名度・信用力・採用力の向上」、「創業者利益」、「管理体制の強化・充実」などがあり、デメリットとしては、「買収のリスク」、「事務負担とコストの増加」、「投資家(株主)対策」、「経営の自由度の低下」などがある。
新興市場
大企業などではなく新興企業(ベンチャー企業)が多く上場する市場。日本市場では「マザーズ」、「JASDAQ」(スタンダードとグロースに区分)、名古屋証券取引所の「セントレックス」、福岡証券取引所の「Q-BOARD」、札幌証券取引所の「アンビシャス」がある。2017年では、新規上場全体の約5割にあたる49社が「マザーズ」に上場し、約8割が新興市場に上場している。
ストックオプション
あらかじめ決めた価格で自社株を買うことができる権利「新株予約権」のうち、企業と雇用関係にある使用人のほか、企業の取締役、会計参与、監査役及び執行役に準ずる者に対して、労働の対価として付与されるコール・オプションのこと。「SO」と略されることがある。IPOの際、上場前に決められた価格で買うことができるため、上場後、決められた一定期間内に権利を行使して株式を取得し、その株式を市場で売却することによって利益を得ることができる。一般的には、IPO直前で発行済み株式数の10~15%程度が上限になる。
遡及監査(遡及的監査)
監査契約締結以前の期間に遡って行う監査のことを「遡及監査」または「遡及的監査」と呼ぶことがある。上場するためには、上場準備企業は監査法人により上場直前2期間の会計監査を受けなければならず、原則認められていない。昨今、上場審査及び監査の厳格化により、「遡及監査」による新規上場は難しいとされている。
損益計算書
「P/L」と表し、貸借対照表(BS)とキャッシュフロー計算書(C/F)と並ぶ基本財務諸表(財務三表と呼ばれる。)の一つ。会計期間内の企業活動で、「収入」と「支出」を対応表示することによって、当該期間にかかる企業の経営成績を表したもの。貸借対照表(BS)はある一時点の財産の残高を表すのに対し、損益計算書(P/L)は一定期間の損益の流れを表す。上場企業では、貸借対照表(BS)とキャッシュフロー計算書(C/F)と併せて、公開が義務付けられている。損益計算書(P/L)から読み取れる企業分析に有効な数値として、「売上総利益率」「売上高営業利益率」「売上高経常利益率」などがある。