インタビュー&コラム
知っておこう!IPOができる会社とできない会社
IPO(=新規株式公開)を夢見る経営者は多いと思いますが、現実にはIPOを達成できる会社と、なかなかIPOできない会社があります。日本には400万社近い企業がありますが、東証一部・二部をはじめとするマーケットに上場しているのは約3500社で、新たに上場する企業は毎年数十社程度です。
本記事では、IPOという非常に狭き門を突破するために、何が必要で、何が不必要かを解説します。
上場するための条件とは
IPOにあたっては、証券取引所による審査を通過する必要があります。審査には、株主数や時価総額などの数値化された「形式基準」と、明確な数値では示されない「実質基準」の、2つの基準があります。まずは形式基準を確認し、これを満たしていない場合には基準をクリアするための取り組みを行うことが第一段階になります。
ベンチャー企業の上場に向いている東証マザーズを例として考えると、
・株主数は200人以上
・時価総額10億円以上
などが条件となります。
しかし実際には、形式条件を満たしているにも関わらず、上場を達成できない会社も多くあります。つまり、IPOの達成で大きな障害となるのは、形式基準ではなくて実質基準であるということです。
IPOに必要な内部統制
実質基準は、IPOをしようとする会社が上場するにふさわしい企業かどうかを判断する基準で、数値化が難しいものです。たとえば東証マザーズでは、企業内容や経営の健全性、内部管理体制の有効性、経営計画の合理性などが審査の対象となります。多くの具体的な項目が挙げられていますが、これらはすべて投資家のためと言えます。その企業が法令を遵守して適切な事業運営をしているかを客観的に確認できるようにすることで、投資家が適切に判断する材料を提供しているのです。
そのため、上場審査のクリアには、会社の運営方法の見直しや、内部管理の強化などを行う必要が生じてきます。これまで社内で慣れ親しんできた方法を、抜本的に見直さなければならなくなる企業も少なくありません。その改革がうまくいかないと、IPOは達成できません。
もちろん、運営や内部管理と合わせて、実質条件では成長性も問われますので、上場準備と並行して利益や売上の向上も図っていかなければならないのです。
さらに、上場前では親族や知人との取引が残っていることがあります。原則、上場の段階で、資本関係にある企業との取引は解消しなければならないため、その準備も必要です。
社内の法規の整備や上場後の内部統制も視野に入れるべきです。上場に関る担当者や決裁権を持つ人、リスク管理をする人などを決めたり、内部統制のマニュアル化やフローの作成も必要でしょう。
そうしたIPO実現に向けた課題を一つひとつ解決していくことは、肉体的にも精神的にも、簡単なことではありません。そのため、「IPOできれば信用力も上がるし、できそうならやってみようかな」といった甘い考えでは、IPO実現は難しいのです。
信念と覚悟をもって取り組むことこそが、IPO実現に向けた長い道のりの第一歩と言えるでしょう。
「いつでもできるから」はいつまでもできない~スケジュールの重要性
業績や財務などの条件は満たしていて、IPOに向けた準備をいつでも始められる状況なのに、「IPOなんてやろうと思えばいつでもできる」「来期以降に上場した方が株価も高くなるかもしれない」などと考えて、先延ばしにしてしまう経営者がいます。そもそも、IPOを実現するためには、3年近くの準備期間が必要と言われています。上場審査では、その会社が上場会社としてふさわしい管理体制を一定期間運用されているかを見られるため、それなりの準備期間が必要なのです。また、投資家に株を買ってもらうためには一定の業績が求められますし、何よりも確実に増収増益基調であることが必須です。
しかし、どんなに業績が好調な企業であっても、不測の事態はあり得ますし、100%来期も安泰という保証はどこにもありません。IPOを成功させるためには、そのためのスケジュール管理と、IPOにチャレンジできる条件が揃っていて、そのチャンスが巡ってきたときには先延ばしにせず、行動に移すことが大切です。
経営者が経営に専念できる環境づくりの重要性
IPOを目指しているけれどなかなかうまくいかない企業の中には、ワンマン社長が会社の全てを把握しようとして失敗してしまっているというケースも多く見受けられます。こういったケースでは経営者が他の人間を根本的に信用できていないため、決済を安心して任せられず、結局自分で全て背負い込んでしまいます。そうなるともちろんIPOに向けた準備は遅々として進まなくなりますし、経営体質としても不健全ですのでどんどんIPOから遠ざかっていってしまいます。
また、このケースに限らず、経営者が経営に専念できないことは非常に大きな問題です。IPOに意気込むあまり、CFOとして既にIPOを成功させた実績や経験のある方を高賃金で招聘するようなケースでは、それが逆効果になってしまう恐れがあります。というのも、IPOは資金調達という意味合いが大きいのでその道に明るい方の助言を仰ぐこと自体は重要なのですが、上場準備中はまだ新規に株を発行したり必要な事務処理をこなしたりする段階であり、資金調達に長けた外部の方よりも、社内の実務に精通した社員に任せた方がうまくいくことが多いのです。
まずは自社から、担当者を慎重に選び、上場のためのスケジュール管理、経営計画、社内体制の整備、上場のための書類作成などを任せていくことが大切です。
IPOの成功には内部体制づくりは不可欠。さらに、それを運用できるレベルまで落とし込む必要があります。これらの準備には時間を要しますし、場合によっては外部のサポートを受けることも視野に入れるべきでしょう。
まとめ
IPOの達成は、その後の会社の成長につながる重要なマイルストーンとなります。IPOの準備には多大な労力が必要となりますが、経営者自身が強い意志を持って臨めば乗り越えられない壁ではありません。チャンスが巡ってきたら先延ばしにせず、上手に人材を活用してIPOにチャレンジするとよいでしょう。