IPOの体制作り/人材採用
準備体制の整備と人材採用
2-①どのような人員体制を取るべきか?
IPO準備で必要なタスクをこなすには、大きく分けて下記3つのタスクを取りまとめる人材がそれぞれ必要です。
1 経理・ディスクローズ(開示)
2 ガバナンス・総務法務
3 経営企画・ファイナンス
これをIPO実務における「三本の矢」と呼びます。
2-②「三本の矢」で作る組織
ある程度の規模の会社で、管理部門の作業にもそれなりのボリュームがある場合は、三本の矢をそれぞれ別の組織とし、上場準備責任者はその統括として全体をコントロールして、細かな作業から手を離し、経営判断や社内外調整、企画や戦略に専念できる組織を作ります。
2-③課題の力点よって変わる組織
それほど大きくない組織の場合、上場準備責任者が三本の矢のうちの一本を受け持ちます。企業の中で、特に上場達成上の課題となる部分を責任者である役員が受け持つと、準備がスムーズに進みます。
2-④資金調達や株価形成に重点を置く場合
上場前の準備段階から資金調達が必要な場合は、ファイナンス・経営企画寄りのCFO(最高財務責任者)をメインに準備を進めます(オーソドックス)。
2-⑤会計・開示体制に重点を置く場合
上場前の資金調達があまり必要でなく、会計・開示体制に課題が多く、整理するのに注力する必要がある場合は、会計寄りのCFOをメインに準備を進めます。
2-⑥ガバナンス・労務に重点を置く場合
ガバナンス周りや労務関連に課題が多く、整理をするのに注力する必要がある場合は、ガバナンス寄りのCAO(管理責任者)をメインに準備を進めます。
2-⑤会計・開示体制に重点を置く場合
上場審査では大きく分けて、下記の二つをチェックします。
◆上場企業としての会計・開示体制
・・・監査法人がチェックをし、その成果物である「Ⅰの部」によって判断
◆上場企業としてのガバナンス・管理体制
・・・「Ⅱの部」に沿って審査
2-⑦上場準備責任者(取締役)の年収
◆シード 600万円~1000万円
◆アーリー 800万円~1200万円
◆直前前期・直前期 1000万円~1400万円
◆申請期・上場直後 1200万円~1600万円
(当社調べ概数)
上記はおおよその目安であり、IPO達成経験のある上場企業の取締役経験者は現年収が高いため、上記以上の年収でないと採用が厳しくなります。ただし、全てが固定報酬という形ではなく、ストックオプションも織り交ぜながら採用を行うケースも多くなっています。
※新興市場上場企業の取締役報酬相場(常勤執行部門:役無)は 1400万円~2000万円、1部上場企業の取締役報酬相場(常勤執執行部門:役無)は1600万円~2400万円程度となっています(当社調べ)。尚、1部上場企業の役員報酬額の中央値は、会長5743万円、社長5435万円、副社長4399万円、専務3780万円、常務3009万円、取締役・執行役員2042万円となっています(デロイト・トーマツ調べ)。
2-⑧責任者採用において気を付けること
◆社長や事業部責任者とコミュニケーションをしっかりとれる人柄であること
・・・IPO準備は社長や株主も含めて、全社一体となった取組が必要です。どんなに専門知識があっても、馬が合わない、社風に合わない人材を採用してしまうと、その専門知識やスキルも使えずに能力を発揮しきれない可能性があります。面接の際には、しっかりと心のコミュニケーションを図り、人柄を見極めましょう。
◆社長や幹部の要求と、実務における正解との摺合せ
・・・プライベートカンパニーからパブリックカンパニーに変わるということは、会社における経営判断の正解は、社長や幹部、オーナーにとってメリットがあることではなく、会社全体や外部株主に対してメリットがあることに変わっていきます。その為、IPO準備を進めるうえで、社長や幹部、オーナーにとってデメリットになるようなこともやらなければなりません。責任者にとっては、それが一番の重みであり、何を目的に上場するのか、そして社長や幹部はどこまでであれば妥協できて、何を譲れないのか、とった摺合せをしておかないと、無謀な要求を押し付けられることによるストレスで、途中で退職してしまうケースが多々あります。尚、上場審査を通る上で必須のもの(法令順守や特別利害関係取引の整理等)については、会社は上場準備責任者に無理を押し付けると上場ができませんので、法令や制度の全社的理解が必要です。