インタビュー&コラム
INTERVIEW

【2018年のIPO達成企業に聞く】オンリーワンの事業と盤石な内部体制の構築


腹を割って話せる関係性と完走する覚悟が大事

独自のアルゴリズムに基づくビッグデータ解析サービスを展開するVALUENEX株式会社は、2018年10月30日に東証マザーズ市場に新規上場を果たした。IPOの責任者であった取締役コーポレート本部長CFOの工藤郁哉氏、総務人事でIPO実務担当の林孝行氏、さらに証券代行機関として同社を支援した三菱UFJ信託銀行証券代行営業推進部IPO支援室室長の岩下浩一郎氏、同社担当の内田雄太氏に成功の秘訣を聞いた。 

VALUENEX株式会社
世界に氾濫する情報から「知」を創造することをミッションに掲げ、独自の解析アルゴリズムによる予測分析システムにより事業創出・技術開発等をサポート。2006年に株式会社創知として創業し、2015年より現在のVALUENEX株式会社に社名変更。

三菱UFJ信託銀行
長年に渡り顧客と共に築き上げたノウハウとソリューション、IPO専担部署である証券代行営業推進部内に設けたコンサルチームを強みに、IPOシェアではトップクラスを誇る。東京・名古屋・大阪の3拠点体制で全国各地のIPO準備会社を支援。

VALUENEX株式会社 取締役 コーポレート本部長 CFO 工藤郁哉氏

世界でオンリーワンの技術と将来性がIPOの原動力

まずは上場までの経緯をおしえてください。

工藤:開業当初から上場を目指しておりましたが、本格的に動き出したのは、グローバル展開の布石としてシリコンバレーに子会社を立ち上げた2014年です。上場の目的は主に、海外企業から見た知名度・信用度の向上、優秀な人材の確保、安定的な財務基盤のための資金調達の3つで、特に人材確保は創業当初に最も苦労した部分でした。

上場後の反響はいかがですか?

工藤:まだ上場して間もないですが、第一印象における信用力が既に高まりつつあると実感しています。上場後に参加した特許・情報フェアでは、社長プレゼンに例年より多くの方にご参加いただけたり、名刺交換の数が増えたりしており、これも上場効果の一つではないでしょうか。また、上場企業になったことで、社員一人ひとりに良い緊張感も生まれています。

IPO関係機関はどのような観点で選びましたか?

工藤:主幹事証券会社のSBI証券は、当社の事業内容と強みを最もご理解いただけたという手応えや、一緒にIPOを実現させるという強い意気込みが決め手でした。一方、監査法人は昨今のIPO準備会社の増加や会計士の人手不足を受けて多忙を極めており、逆に「いかに受けていただけるか」という観点が重要になりました。当社が契約したEY新日本有限責任監査法人には、管理体制や事業の状況を正直にお伝えした上で、当社事業の独自性と将来性を高く評価していただけたと考えています。監査法人とは、早め早めの情報提供を心がけてお付き合いするようにしました。

当社のアルゴリズムは世界でオンリーワンの技術であり、質・量・スピードのすべてが高水準、かつバランスに長けています。営利目的の情報も混在する検索エンジンや、スピードと量に限界がある人間の分析に対し、書籍10万冊を数時間のうちに一字一句漏らさず解析して文献の相互関係を分布図に表すという技術です。これにグローバル展開の将来性も加味して成長を予感していただけたようです。

三菱UFJ信託銀行 証券代行営業推進部 IPO支援室室長 岩下浩一郎氏

三菱UFJ信託銀行を選んだ理由をおしえてください。

工藤:三菱UFJ信託銀行さんは株式周りの老舗として経験とノウハウの蓄積が豊富で、それを会社全体で継承している安心感もあります。ありとあらゆるケースに、タイムリーに的確なアドバイスがいただけるパートナーという印象です。

岩下:当社は上場前後の幅広いお客様のニーズに対応しており、経験値の高さがIPOシェアに結びついていると考えます。組織としてのノウハウの継承も重視していますので、お客様にそう言っていただけるのは大変ありがたいことです。

VALUENEX株式会社 コーポレート本部 人事・総務チーム リーダー  林孝行氏

迅速な対応と腹を割って話せる関係性が重要

IPO準備で苦労したのはどのような点でしょうか?

工藤:一番は内部管理体制の構築です。審査への対応や適時開示の実績作りができる人材を探し、相互牽制が効くよう財務と経理を分けて、といったことから始め、約3年かけて取り組みました。会社規模を考えると管理部門ばかり増やすわけにはいきませんが、それでもIPOを達成するには一定の人的投資を覚悟する必要があります。

林:私自身もIPOの約半年前2018年3月にMS-Japanの紹介で入社しました。財務・経理担当者の採用にも携わり、最終的には財務・経理チーム4名、人事・総務チーム2名の体制となりました。

三菱UFJ信託銀行はどのような支援を行ったのでしょうか?

内田:林さんは体制構築以外にも多様な課題を抱える状況でしたので、株式実務に関わる課題はすべて頼っていただけるようにするのが我々の使命と考えました。特に上場直前は定款の変更など特殊で時限性有る対応が求められますので、課題解決提案を心がけ、お客様の業務を単純、明瞭にし、ストレスフリーで淡々と作業していただければよい状態を理想としてサポートしました。

工藤:株主総会の議案はもちろんリーガルチェックも受けますが、三菱UFJ信託銀行は専門性が高く他社事例も豊富ですから、同社が関わる部分はまず心配ないという印象でした。

林:社内では「内田さんに確認をとれ」が合言葉になるほど、絶大な信頼を寄せていました。IPOの申請期に入社した私ですが、上場企業になるためのテクニカルなことは、三菱UFJ信託銀行の内田さんに聞くことで、前に進むことができました。

工藤:内田さんは共にIPOを成し遂げようという熱い思いも持っていました。ある時、準備が停滞して意気消沈で内田さんに電話したのですが、「何を言っているんですか!腰を据えて臨めば大丈夫です。我々にできることは何でもします」と背中を押していただきました。マラソンと同じで、旗を振って応援してくれる人がいるから完走できるのです。

内田:VALUENEXさんとは当社の前々任者から長いお付き合いがあり思い入れの強い会社でしたので、ここで諦めてほしくないと思い厳しいこともお伝えしました。上場が決まった際は喜びもひとしおでしたし、上場セレモニーには招待客ではなく同社関係者側で出席という異例の待遇で迎えていただき、最高の形となりました。

(左)三菱UFJ信託銀行 証券代行営業推進部 IPO支援室 内田雄太氏

三菱UFJ信託銀行から見て、今回のIPO成功の秘訣は何だと考えますか?

内田:腹を割って何でも聞いていただき、課題・不安をスピーディーに解消できる関係性を築けたことです。林さんは極めて正確かつ迅速にご対応いただき、マニアックで手間がかかることも多い終盤局面の課題もほぼ即日で回答・解消されていました。私がIPOを支援させていただいた約30社の中でも指折りのスムーズさです。迅速な対応の積み重ねは余裕を生み、万が一問題が起きた際の対処の時間も確保できます。

岩下:同社の中村社長がIPOを目指す上で、これまで全く縁の無かった株式実務やIR・SRなどの知識を意欲的に学ぶ姿勢も印象的でした。IPO準備の実務はマネージャークラスに任せる経営者も多い中、中村社長は工藤取締役と一緒に当社の経営者層向け株式実務セミナーに参加され非常に熱心にメモを取っておられ、経営トップとしてIPO達成にかける並々ならぬ熱意を感じました。

IPOを成功させるために熱い思いと覚悟を

これからIPOを目指す会社にメッセージをお願いします。

工藤:IPOへの道のりは山あり谷ありですが、必ずできると自分や自社を信じることが大事です。その支えになるのが「成長には上場しかない、うちが上場しないでどこがやるんだ」という熱い思いと覚悟です。

林:一つは、走りながら考えることです。特にベンチャーはじっくり考える暇もあまりありませんから。もう一つは、周りの人を巻き込むこと。走りながら考えてある程度固まったら、すぐに詳しい関係者に投げる。これを繰り返すことで業務が円滑に進みました。

内田:わからないことを何度も乗り越えていくには強い意志が必要です。これがないと、IPO実現が難しくなるでしょう。IPOを目指す方にはそういった思いで臨んでいただきたいですし、サポート役の我々も思いを共有することを意識しています。

岩下:IPOを実現するためには、業績と内部管理体制の両輪のバランスが重要です。業績は絶好調でも内部管理体制が脆弱で主幹事証券の審査でつまずく会社を、我々は非常に多く見てきました。企業規模にもよりますが、例えば、直前々期(N-2期)の管理部人員は3名体制、直前期(N-1期)には4名体制というように、時期に応じた適切な管理体制を築いていくことが肝要かと思います。

三菱UFJ信託銀行株式会社
https://www.tr.mufg.jp/
住所 〒100-8212 東京都千代田区丸の内1丁目4番5号
設立 1927年3月
従業員数 6,959名(2017年3月末現在)

VALUENEX株式会社
https://valuenex.com/
住所 〒112-0006 東京都文京区小日向4-5-16ツインヒルズ茗荷谷
設立 2006年8月
従業員数 17名(2018年7月末現在)


三菱UFJ信託銀行株式会社

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